Y-21

~『泥流地帯』に生きる子どものリアル~(1)

三浦綾子が描く学校と、今
 ~『泥流地帯』に生きる子どものリアル~
 成跳中学高等学校教諭  濱村 愛先生

編集者 森下 辰衛先生
国立山口大文学部・同大大学院・九州女学院大助教授で、北海道・旭川に居を構えて、三浦 綾子記念館・特別研究員・三浦綾子読書会監修者です。
著作権のお許しをいただいております。
私(三浦)に、いかようにもお使いください。
三浦 綾子の名前だけ出してくださいでした。

 始業式のあいさつ。 私は、東京の私立中高一貫校で国語の教員をしています。
中学校の先生をしいているというと「 大変ねぇ」、と言われるのですが、私自身は毎日非常に楽しく教員生活を送っています 。
それは、生徒のおかげです。 私は、担任になると四月の始業式で必ず「何事にも一生懸命取り組むこと。勉強がすべてではない。
性格は良く、素直でいてほしい」、と話しています。
これまで、中学三年生を何度か卒業させました。
一貫校 なので卒業させた後も、授業を担当しますが、私は中学三年間を特別な期間、と考えて接しています。
礼儀や人としての心構えを確固たるものにしてほしいと思っているからです。真剣に取り組まないなら、最初からやらないほうが良い。
成績の良し悪しや外見で、他人を馬鹿にする人は良い人間関係は築けない。そんな私の言葉に対して、気持ちの良い返 事が返ってきたら、「返事がいいと幸せがくるよ」と言っています。
「 返事がいいと幸せがくる」。これは『銃口』の坂部久哉先生の言葉です。
坂部先生は小学校の先生ですが、中学校の教員である私が、中学生相手に「返事がいいと幸せがくるよ」と言っても、生徒は非常に嬉しそうな顔をし、「やったー」と言います。
私はそんな素直なところに子どもの魅力を感じています。
私が「何事にも一生懸命に取り組むこと。勉強だけがすべてではない。性格は良く、素直でいてほしい」と考えるようになったのは、これまでの教員経験はもちろん、『 泥流地帯』、の中のエピソードに影響を受けたからです。
成績を良くするか 、性格を良くするか。 『泥流地帯』は上富良野の開拓農家の兄弟、石村拓一、耕作の生き方と周りとの関わりを描いた小説です 。
拓一、耕作兄弟は、幼い頃に父親を喪い、母親とは離れて暮らし、祖父母と姉、妹の六人で、決して豊かとはいえない暮らしをしていました。
耕作は中学進学を勧められるほど優秀。自身も進学を希望しましたが、中学というのは現代の中学とは程遠く、受験をし、選ばれた人しか行けない学校で、お金もかかります。

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