「また、花の絵か、血は争えないもんだね」。 アルバムの中で、非常に大きな意味を持つことになる言葉です。
清美の絵の才能は開花していきました。
ついに五年生のクリスマス、旭川市の小学校の代表として、「金賞」をとの紹介がありました。
受けた絵が、北海道全域の展覧会に、出品されることとなったのです。その結果、北海道一に選ばれました。
普段、あまり関心のない母も、これには大変喜んで、「これはどうしても、札幌まで展覧会を見に行かなければねえ」。
奮発して着物を新調したりしますが、でも当事者である清美の着る物のことは、思いつかないまま、日にちが迫ってきます。
母もそのことに気付いて、日曜日の朝、清美のセーターでも買いに行くことになり、出かけよぅとしたとき、書留速達で郵便小包が届いたのです。
開けてみると、清美用の洋服、水色のワンピースが出てきました。
送り主は清美の知らない人の名前でしたが、その洋服は清美の体にピッタリと合った、センスのいい仕立てで、清美が今まで着たどの服よりもよく似合いました。
鏡のなかの、自分の姿に見ほれる清美。体全体を包んだ「水色」が清美の心をも変えていったと、感じることができます。
清美と母は、札幌での授賞式に臨みます。
知事代理や市長に次いで、お祝いの言葉を述べる羽織袴の男の人は、生け花の世界では北海道でも名前の知られている先生との紹介がありました。
「美しいものが解らなければ、本当の人間になることはできません」。
静かな声と共に、温かい、優しい目が清美に注がれ、清美もしたわしい気持ちで、じつとその人を見つめていました。
授賞式の後のお茶とケーキのパーティの場で、その男の人は清美に近づいてきて、 「おめでとう、いい絵だったね」。 と、話しかけます。
心地ょい声と優しい話し方をする男の人に、清美の心は打たれました。
「花は好きかね」、その人に聞かれ、 「大好きです」。
清美が少し固くなって答えると、 「水色がょく似合ぅんだね」、と微笑み、清美の母には、 「いいお子さんですね」、
と声をかけましたが、母はじっと床に視線を落とし、返事もしません。
「じゃあ、またいい絵を見せてほしいな。元気でねと、離れて行くのでした。
「絵を見に行こうよ、絵を」と、母が言い、会場に戻ると、中央に飾られた絵の前は、大勢の親子づれが立ち止まって見ていました。