補章:日本社会における「経済中心型」豊かさとその変容
1.高度経済成長と「経済的成功=幸福」の公式
戦後の日本において、国民的な合意として共有されたのは「豊かさは経済の成長によって達成される」という価値観だった。高度経済成長期を経て、「一億総中流」と呼ばれるような経済的均質社会が生まれ、「持ち家」「マイカー」「家電三種の神器」などが幸福の象徴として語られた。その背景には、経済的自立と安定雇用が生活の安心を生み、「個の自由」よりも「組織との一体感=私たち」が重視される社会構造があった。
2.失われた30年と価値観の再編
しかしバブル崩壊後の「失われた30年」は、日本の経済成長神話に亀裂を生じさせた。非正規雇用の増加、少子高齢化、地域間格差など、構造的な課題が顕在化し、「努力すれば報われる」という前提が崩れていった。これにより、「経済的成功=幸福」という構図も問い直され、精神的充足やワークライフバランス、コミュニティとのつながりなど、非物質的な豊かさへの関心が高まりつつある。