雪のアルバム(5)

三浦綾子の作品『雪のアルバム』
芦屋、神戸三浦綾子読書会
編集者 森下 辰衛先生
国立山口大文学部・同大大学院・九州女学院大助教授で、北海道・旭川に居を構えて、三浦 綾子記念館・特別研究員・三浦綾子読書会監修者です。
著作権のお許しをいただいております。
私(三浦)に、いかようにもお使いください。
三浦 綾子の名前だけ出してくださいでした。

妻がありながら、若い女性に子供を産ませた、兄に代わって清美の母に詫び、兄の犯した罪を自分が身代わりとなって、責任を持ってその子を育てたいと申し出た行為。
兄の罪が、厳格な両親の知るところとなったとき、間に入って兄の罪の許しを執りもったた姿や、やさしい姿と心のこもった声で、大切な歌を清美におしえてくれ、喜びと希望を持たせ、 はらはらと涙をこぼして抱きしめた姿。
必要な服を、ぴったりと身に合わせて、遅れることなく、速達で与えて、水の色をもって清美のすさみかけた全身と心を包み、喜びに変えてくれた。
叔母、船戸沙織。
その一つひとつ、同じ三十三歳まで、地上で人類になされたあの、イエスキリストの雛型として、女性の姿に代えて、
物語の作者三浦綾子は、作品の中心に据えたと読み取ることができます。
アルバムには、中学生になった清美の生活が現れます。
中学校のすぐ近く、帰り道にある小川にかかる狭い木の橋。白い春の雲が、川面をゆっくりと流れている。
そこで、思いがけなく小学校の時、どろぼう扱いされた、清美をかばってくれた、あの章と出会う。
章は中学三年になっていました。
心の中に焼き付いていたあたたかい目で、章は照れ臭そうに通り過ぎて行ってしまう。
「永遠に輝く白きそそぎの詩。
川辺には、忘れな草の花が、やさしく風にゆれています。
そうしたある日、学校から帰ると、血相を変えている母に、
 「さあ札幌に行くのよJ。 と、うわずった声でせかされる。
 「札幌へ?」。
「あんたのお父さんが、悪いんだって」
 「私のお父さん?」
 清美の父ではあっても、母には愛する夫とは呼べないその胸中には、計り難いものがあった。
愛には時として厳しさを求められます。
小学五年生の時に、一度会ったきりの、あの父、抱き続けてきた面影。
父として、娘として、会う日が必ずあると信じていた清美でした。
「くもまっか出血だって、手術の最中で、命の保証はできないんだって」
札幌行きの最終急行に間に合う。
母は顏にハンカチを当てたまま嗚咽し続ける。
ハンカチは涙で、ぐしゃぐしゃです。 清美は、母の父への変わることのない、滴る程の愛を感じました。
病院に着くと、父は手術中、どんなことがあっても、父には生きていてほしいと、切実な思いが湧いてくる。
死ぬかもしれない、父のそばにいて、清美は父を身近に感じたのです。

Verified by MonsterInsights